顕微鏡歯科が地方では広まらない理由

先日、遠方から(片道電車で3時間)患者さんが来られた。MDNJ (顕微鏡歯科ネットワークジャパン)のサイトを見てきてくれたとのことで、びっくりもし診察に気合いも入った。

正直 僕はこのメンバーであるが、地方では顕微鏡歯科の啓蒙とその治療を望む患者さんの集患には「あまり効果はないかもしれない。」と思っていた。東京(その他)でバリバリやっておられるメンバーの先生達とつながりができて、自分の臨床の興味がつきないよう、興味がそそられ続ければいいかなという感じで参加していた。(人と人のつながりがやっぱり一番大切だと思っている。)

地方(特に九州地方)では顕微鏡歯科の普及はいまひとつで、メーカーやディーラーの方と話をしてもあきらめ感がある。「九州じゃマイクロ売れないな。」と。今まで地道に講演会やマイクロの貸し出しを行ってきても、さっぱり売れない。じゃあ顕微鏡歯科に効果がないのか?と聞けば、「顕微鏡歯科の効果は必ずある。」と歯医者もメーカー、ディーラー側も分かってはいる。それでも九州ではなぜか売れない。顕微鏡歯科学会の九州大会も人が集まらないので、開催しても意味はないという理由で開催地を新潟に変更したような土地柄なのだ。(九州在住の歯科医としてお恥ずかしい限りだが。)

脳外科でも形成外科でも顕微鏡を使いこなせれば、治療の成功率は上がる。それは歯科でも変わらない。治療の成功率を上げる=病気を治せる確率が上がるとなると、医者の良心として、普通は何が何でも絶対使おうと考える。昔の職人が自分の仕事に誇りを持っていて、手抜きをゆるさなかったように。

では、顕微鏡を使った方がいいのが分かっている歯科医が使わないのは、歯医者の良心に欠けているからだろうか?僕個人の意見としては厳密に言えば欠けていると思う。しかし、使っていない歯科医すべてが手抜き先生だとは言えない。彼らはただ、使わなくても何ら困っていないから使わないだけなのだ。

使わなくても困らないという臨床姿勢こそが問題であり、(これを問題ととらえるかどうかは賛否両論あるかもしれない。)この問題を深く掘り下げて考えてみようと思う。

顕微鏡を使うと、簡単に言えば治療術野がよく見えるようになる。ただそれだけなのだが、よく見えると治療の人為的ミスは少なくなる。=治療の成功率は上がる。

顕微鏡を使わないと、治療術野はよく見えない。(見えたつもりでも細部にわたっては見えていない。)すると、治療の成功率は下がる確率が高い。平たく言えば、手抜きしたつもりはなくても、手抜きになっているかもしれないという事だ。

治療の成功率が下がるという事は、治療した歯の延命率が下がる一因になるということで、治療のやり直しや将来抜歯になる確率が高くなるかもしれないということに繋がる。だが、多くの歯医者さんは、どうもある程度の治療のやり直しや抜歯になることはしょうがない事ととらえている節がある。

患者さんにとっては、誰でも治療のやり直しや抜歯はいやなのだが、歯抜けになったりすると御飯も食べにくいし、見た目も悪くなるから歯医者さんへ行く。「歯の治療って、1回治療しても治らないものなのかな?」と疑問におもいつつも漫然と治療を受け続けるわけだ。そして、歯は再治療を繰り返すほど、どんどん抜歯へ近づいていく。

そして、ついに歯が抜けた後は、歯科の十八番『欠損補綴』が登場する。歯科界では今も昔も欠損補綴を非常に重視しており、欠損補綴こそ歯科の醍醐味だと思っている人が多い。一方、国民も「歳をとったら、歯は抜けるものだ。」となんとなく思っており、「歳を取ったら入れ歯のお世話になるのかな?」と思っている。

ようは、顕微鏡を使わなくても何ら困っていない状況というのは、

1、歯科医自身が漠然と治療は必ずやり直しが必要となり、治療を繰り返すと抜歯になってしまうのはしょうがないと考えている点。

2、抜歯になっても得意の欠損補綴でなんとかしてやれるし、欠損補綴こそ歯科治療の本質であると考えている点。

3、国民も歯抜けになることに不思議と抵抗感がないという点

この3点に問題の本質があると考えている。

まず1の治療をやってもどうせダメになると考えている歯科医は、わざわざ顕微鏡を使って、治療のやり直しや抜歯にならないような努力(やれるだけのことは最善の方法でやろうという気持ち)をしようという気持ちを持たないだろう。普通の感覚で行けば、自分の仕事が失敗したら、「なんで?どうして?原因は?失敗しないようにするには、どうしたらいいんだろうか?」と必死に考えるのだが、再治療や抜歯はしょうがない事ととらえている歯科医は、「しょうがねーなー。またやっか。」ぐらいの感覚で仕事をすることになる。この感覚の差は大きく、虫歯治療ひとつとっても「絶対虫歯の取り残しや再発がないようにしよう。」と考えて仕事をする人と「虫歯かー。パパッとなるべく早く終わらせて被せよう。」と考える人では治療結果に雲泥の差が出てくるのは当たり前の話である。再治療や抜歯はしょうがない事ととらえている歯科医は、顕微鏡を使って何とかしようなんて気持ちはとうてい浮かばない。

次に2の欠損補綴についてだが、欠損補綴とは、歯がない所に歯を作って見た目や噛みやすさを回復してあげることだ。歯がなくならなければ欠損補綴も必要はないのだが、再治療や抜歯はしょうがない事ととらえている歯科医の臨床では、必然的に欠損補綴の仕事が多くなってくる。例えが極端かもしれないが、普通の医者の感覚では、手や足を切断しなければならなくなったとき、なんとか義手や義足にならないよう治療で残せないだろうか?と考え治療に当たると思う。そして万策つきて切断しか方法がなくなったときでも、よろこんで義手や義足を作ろうって医者はいない。(義手や義足の製作調整は医者の仕事ではない。)しかし、歯科では歯の保存より、歯がなくなったときの欠損補綴の方法に異常に関心を示す人が多い。またメーカーも欠損補綴関連の製品に力を入れている。たかだか欠損補綴ごときになにをそんなに血眼になって、と思うのだが、欠損補綴こそ歯科治療の保守本流であると考えている歯科医が顕微鏡を必要としないことは当然だ。

最後に3であるが、国民の大多数は歯抜けになることにあまり抵抗を感じていないように思う。歯に対する価値観が低いと言えばそれまでだが、多くの国民の歯科に対するイメージが「顕微鏡?使ってなんぼ?歯医者さんって歯抜けを治す所でしょ。医者っていうより大工に近いかな。きれいにトンカン、トンカンやってくれればなおグッド。」ぐらいにしか思っていない状況では、歯医者さんが顕微鏡を導入しようとする気になれないのはしょうがないのかもしれない。特に地方では、まだまだ欠損補綴のニーズが高いので、顕微鏡歯科なんてまどろっこしいことやっとられん。ということが広がらない理由だと思う。その証拠に九州ではインプラント治療に必要なCTのほうがコンスタントに売れているそうだ。

顕微鏡歯科が地方では広まらない理由として、3つ上げてみたが、地方に限らず日本全国まだまだ顕微鏡歯科は認知されていない。結局は歯医者自身の仕事に対する意識の問題という所に落ち着くのだが、次回は自分なりの解決策を書いてみようと思う。

続く

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