歯内療法(歯の根っこ•神経の治療)の成功率はなぜ上がらないか?

顕微鏡歯科治療で最も治療効果があがるのは何と言っても 歯内療法(歯の根っこ•神経の治療)だと思う。手前味噌だが岡歯科でも顕微鏡(マイクロスコープ)を導入し、取り組み方を変える事によって歯内療法の成功率には、多少なりとも自信がもてるようになってきた。

『いや、マジです…』


昔 虫歯などからくる歯痛の解消法としては、抜歯を選択する場合が多く、抜歯をして歯が無くなった所に歯を作るというのが歯科のメインの仕事であった。その後 歯内療法の発達により歯痛で歯を抜くというのはほとんど行われなくなったが、歯内療法の医療としての成功率は現代でも上がっておらず、多くの歯科医師は歯内療法を歯痛の除去と歯冠修復(歯を削って被せる事)の前準備としてしかとらえていない。

『ちゃんとした歯内療法を施せば保存出来る歯を、歯内療法の予後は悪いからという理由だけで抜歯してインプラントにする最近の傾向は、歯科医の先祖帰りを意味しているんです。』


歯内療法の医療としての成功とは、失活(歯の神経をとるという事)というダーメジを受けた歯を生涯にわたって口の中で機能させることを目的としており、これは残念ながら現代でもほとんどのケースで達成されていないという事実がある。(患者さんにはよく思い返してほしい、自分の歯でトラブルを起こして再治療や抜歯になったのは、ほとんど神経をとった歯だったという事を。)

今回はある歯科医が歯内療法のセミナーを受けて書いた歯内療法に対する率直な感想を読む機会があったので、日本における歯内療法の問題点と自分の考えを述べてみたい。

『と、言われるかもしれませんが。』

『まぁ、若輩の意見として一つ読んでやっってください。』


断っておくが、その歯科医の歯内療法に対する考え方というのは、総じて日本の普通の歯科医が歯内療法に対して感じている考え方に近いと思ったから取り上げるだけで、その歯科医を非難しているわけではないことをあらかじめ記しておく。

『最初に謝っときます。』

『どーも、すみません。』


患者さんには、歯科医が歯内療法に対してどういう姿勢で取り組んでいるのか?もし自分が治療を受ける場合は、どういう歯科医院を選べばいいのかを感じ、多少なりとも参考にしていただければうれしく思う。


『じゃあ、はじめます!』


ある歯科医は歯内療法を患者さんも歯医者さんも最も嫌う治療であると記している。その理由は

❶治療期間と回数、治療時間がかかる

❷治療中や治療後に痛む

❸治療の手間がかかるわりには、採算性が悪くトラブルも多いし、むくわれた気がしないから

だそうだ。その中で特に歯科医がまともにやりたがらない理由を、諸外国の歯科治療費や歯内療法専門医の治療費と比較して、日本では採算性がまったくあわないからだと書いている。自分も昔はそう思っていた時期もあるし、そこまで書くこの先生はとても正直な人だと思う。

確かに日本の歯内療法の保険治療費は安く設定されており、歯痛の除去だけを目的としていた頃の最初の治療費とあまり変わらず据え置かれている。

そして、歯内療法は不採算部門だが一生懸命やるのは自分の探究心と趣味であるとまで記している。これを読んだとき、非常にりっぱな先生だと思った。自分ごとき3流歯科医とは雲泥の差がある高尚な御仁であることは疑いようもない。

『感動した!!』


だが、下衆な歯科医である私は思うのだ。なぜ、その高尚な先生はセラミックやインプラントなどの自由診療を積極的に患者さんにすすめるが、大切と分かっている歯内療法が費用の問題で解決できるなら自由診療で行わないのだろうか?と。

『いや本当にぜひ、理由を教えてほしい。』


それに、その歯科医は歯の治療を家を建てることに例えて、歯内療法は家の基礎工事にあたる重要だけど地味な部門だ。しかし、家が完成したとき素人である施主は目で見える上物を作った設計士や建築屋に感謝はするが、大事な基礎工事をした人たちにはあんまり感謝しないと記している。

『本当だろうか?』

家作りで基礎が大切なのは素人でもわかっている。基礎工事を請け負う業者と施主が交わることは少ないとは思うが、まともな設計士や建築屋なら基礎の大切さ方法などちゃんと施主に説明して理解を求め、費用の面で基礎工事業者に配慮すると思う。そして施主も立派な基礎を作ってくれたら安心するし、基礎業者にも心から感謝すると思うのだが…


自分は、セラッミックを被せる前に歯内療法が必要なときはちゃんと説明し、歯内療法にも費用をかけたほうがいい場合にはその旨伝えるのが普通だと思っている。しかし、どうもその高尚な先生を含め多くの歯科医にはそういう感覚はないらしい。

『それとも俺が変わっているだけなのか?』

『そうか、そうなのか?』


たまに、被せる上物がセラミックなどの自由診療になった場合は歯内療法を一生懸命するという歯科医がいると聞くが、その時だけ一生懸命して、保険の被せ物のときは一生懸命しないという感覚もよくわからない。まあ心情的に理解はできるが、それは医療行為に値段によって差をつけているだけの話である。だから、歯内療法でもセラミックやインプラントをすすめる時と同じで、もし患者さんに必要があれば自由診療の歯内療法も説明すべきだと思うのは自分が下衆な歯科医だからだろうか?

『下衆ですみません。』


自分のことを棚に上げて言うのもなんだが、たぶんその歯科医を含め多くの歯科医は医療としての歯内療法を行う自信が無い。平たく言えば治せる自信が無いのだと思う。

『生意気言ってすみません。』


「0.1㍉の細かい穴から感染部を除去していきます…見えません!」と書いている所を読むと歯内療法に対する自信の無さが見えてくる。しかし、今は顕微鏡(マイクロスコープ)という便利な道具もあるので、見えないという問題はあらかた解決できるはずだ。

『解決策が見つかってよかったね!!』


マイクロが高くて買えないという先生もいるが、300万ぐらい出せばまともなマイクロは買える。高尚な先生を含め歯内療法に対する探究心があるのであれば、マイクロを買って歯内療法の成功率を高め、趣味で臨床を行うのではなく、堂々と自由診療で費用を請求し投資を回収すればいいと思うが、いかがなものであろうか?それに300万ぐらいの投資を惜しむ歯医者さんを一般の人はどう思うだろうか?

『その通り。』


自分が言いたい事は、歯内療法という治療が必要であると理解しているならば、1回の治療時間をちゃんとかけて、治療期間や回数を減らし、マイクロや超音波器具など道具もそろえて、痛みが出ないように丁寧に治療を行い、トラブルを少なくして、費用を堂々と請求したほうが、中途半端に悶々と臨床を行っているよりはよっぽど報われるはずであるということである。

もし、歯内療法に自信がないのであればセミナーなどで勉強して日々精進すればいいだけの話だ。


『調子のって来たぞ〜誰か止めて〜!!』


あと、多くの歯科医は歯内療法を医療としてではなく、まだ歯痛の除去と歯冠修復(歯を削って被せる事)の前準備としてとらえている。そういう歯科医は失活(歯の神経をとるという事)というダメージを受けた歯を生涯にわたって口の中で機能させるという歯内療法の医療目的事体にさえ気づいていない。

下衆な私の経験から言わせてもらうと、ある歯科医みたいに歯内療法は不採算部門だが、自分の探究心と趣味として一生懸命やるという場合と歯の除痛と歯冠修復の前準備としてだけやる場合は結果あまり差はでない。ちょっと中途半端と思いっきり中途半端な違いだけで、歯内療法は中途半端にやっても治らないものである。

『いや本当、その通り。』


最後にある歯科医は審美歯科とインプラントが治療後の変化が大きく、患者さんにものすごくよろこばれる分野で現代歯科医療の花形であり、歯内療法は大切だが治療後の変化が少なく地味な分野だと嘆いている。多くの歯科医が持っていると思われるこの感覚を変えない限り、歯内療法の医療としての成功率は上がらないし、インプラントが行き過ぎると歯科医療は抜歯して歯が無い所に歯を作っていただけの昔の歯医者に逆戻りしていまう。それは患者さんにとっても不幸なことだ。

『誰か止めてえええええええええ〜。』


普通、患者さんの立場からすると、見た目やインプラントより、まず自分の歯を残せる歯内療法が一番大事なはずである。審美歯科と称して前歯6本にセラミックを被せるときでも歯内療法がダメなら土台から崩れてダメになるし、そもそも歯がなくならなければインプラントなど必要ない。

審美歯科とインプラントがこれからの歯科医療だ!みたいなプロパガンダを思いっきり受けて踊らされているだけだと思うが、普通医療として考えた場合は芸能人を相手にしているわけではないのだから、たかが前歯でそんな審美、審美とこだわる必要もないし、結果きれいになったというぐらいで十分であろう。

それに、医療としての歯科医療はインプラントなどの欠損補綴(歯がない所に歯を作る方法)を駆逐する方向に向かって行くはずである。

歯科医も医療人であるならば、審美歯科とインプラントという狭い分野にこだわるのではなく、もっとまともな感覚を持つべきではないだろうか?

 

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歯内療法(歯の根っこ•神経の治療)の成功率はなぜ上がらないか? への2件のコメント

  1. 松本晃治 より:

    岡先生。こんにちは。
    こんな先生がいました。
    マイクロでの治療を数人と話していると、
    「そんな細かいことばかり気にしていたら、小さな人間になる。
    ボクはおおらかな人間だからマイクロはいらない」
    と声高らかに言い放つ50代の先生。

    ところが数日後、
    「上顎の6番にパーフォレーションがあって、時々痛い。
    マイクロとMTAで治療してくれ」
    とその先生から言われました。

    患者にはマイクロ使う必要なない、細かい治療は必要ないと言いつつ、
    自分の治療はマイクロ使って、ちゃんとしたい。

    なんだか、いや〜〜な気分になる先生でした。

    • oka より:

      またまた駄文を読んでいただいてありがとうございます。僕の意見にも議論はあってしかるべきだと思っていますが、仕事に対する姿勢はいろいろとありますから…その先生にもバッチリ治してもらって、顕微鏡歯科治療のよさを認識していただければと思います。

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